国際取引の最新事情と実務


第19回 国際取引における契約について

 今回から国際取引に関る契約関係について、シリーズで解説して参ります。

 私は大学を卒業して、最初に入社したのが造船所で23年間勤務しました。次がゲーム機メーカーで15年間勤務と、全く性質の異なる二つの事業分野で合算38年間国際取引に従事して参りました。
造船所時代では船舶輸出に於ける直接輸出を担当しました。直接輸出とは、商社経由での取り扱いではなく、造船所が直接依頼主へ船舶を販売する取引です。その草分けの時代で、造船工業会による英文造船標準契約書の作成に参画出来ました。その後のゲーム機メーカーの時代では、このメーカーが海外進出戦略を実行する真っ只中にあり、契約関係と国際取引の企業内インフラの整備に従事しました。これらの経験を通じ、国際取引従事者の契約に関する認識の度合いが如何に重要かを、身をもって経験しました。この間培って来た知識と経験をこのメルマガを通じて、出来る限りお伝えしていきたいと念じています。

 国際取引を主体的に遂行される方にとって、契約書は大変重要な書類です。私はこの国際取引契約書の細部に渡っての認識の度合いが各々の方々の間で大きなばらつきがあることに気がつきました。実際に国際取引を遂行する立場にある海外事業部門の担当者は事業計画で設定された売上目標を達成するのが、第一義的な使命であり、契約に関する事項は法務部門に任せている、というスタンスをとられているケースがよく見受けられます。
事の良し悪しは別として、大手企業ですと、法務部門を組織化し対処が可能でしょう。ところが、中小企業で少人数での事業を遂行している場合は、大企業のような法務部を設けるなどの体制を敷くのは困難でしょう。

 しかし、国際取引に伴うリスクは大手企業であろうと、中小企業であろうと全く等しくついてまわることなのです。つまり国際取引に伴うリスクは国際取引従事者、中小企業の場合は経営者に、直接帰属する課題です。従って国際取引従事者にとって国際取引契約書は他人事ではありません。

 元来、我々日本人は契約に対する概念が欧米人と比べると非常に低いと言われています。顕著な例では「起こってもいない契約上の問題をあれこれ想定して、その場合は契約の両当事者はどのように対応するか等、一々規定する必要はない。事が起こったら、両社誠意をもって対処すると規定しておけば良い。」と公言する経営者が今でも多数おられるのが現実です。
これに対して、欧米人は全く別の反応となります。「契約に対して非常に真摯な態度であり、信頼性のおける企業」という反応になります。

 もし事が起こったら、お互いに誠意をもって事に対処はできないのが現実です。実際に事が起こってしまったのですから、もはや誠意もへったくれあったものではありません。そのために、事が起こる前に、お互いが平常心である間に、種々のリスクを最小化するために契約が必要となるのです。特に法制度、言語、習慣等を異にする国際取引では契約は最も重要になってきます。

 契約とは「異なる利益状況にある者が相互の利益を図る目的で、一定の権利義務関係を規定し、それらを法的な強制力により保護するためのもの。」と言われています。ですから、国際取引契約においては「異なる法制度を有している国の企業との取引契約」と言うことになります。
国際取引を遂行する多くの実務者は「法的な強制力とか」、「異なった法制度」とか言う言葉の出現で、尻込みしてしまい「自分は国際取引を遂行するには支障なくやれるが、法律には疎いから契約に関する部分は法務部門ないしは弁護士に任せる」となってしまっているのではないでしょうか?

 契約は個々の取引の実態を文章化し、契約当事者の双方の権利義務関係を明文化するものである以上、契約書作成の主体者は法務部門でもなければ、弁護士でもありません。国際取引を主体的に担当する実務担当者でなければならないのに、残念ながら、実務者の中にも先の例の通り国際取引契約の中身をきちんと掌握していない人が結構多くいるというのが現実です。
契約は個々の取引の内容によって、変化していくものですし、また変化させなければならないものです。それに対応していけるのは国際取引を担当している実務者に他なりません。特に最近ではインターネットの普及により、英文契約書のサンプルが簡単にダウンロードできる様になりました。そのサンプルに商品名、契約金額、自社及び取引相手先の名前等、取引の基本情報さえ入力すれば、いとも簡単に契約書が作成できてしまいます。

しかしこのように安易に作成された契約書が、果たして個々の取引き内容や、取引の特徴、取引先の状況等に裏づけされた契約書になっているのかどうか、国際取引の実務担当者が照査出来ているのでしょうか?

次回から英文契約書について、特に国内取引契約書との違いに焦点を合わせながら、実例を交えて概説していきます。







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