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1.はじめに
近年、知財に関する話題が日々報道されるようになってきた。特許権の侵害に対する差止、損害賠償請求、そして、発明の対価を巡る争い。また、知財を担保とした中小企業に対する資金の投資・融資などもクローズアップされている。さらに、政府は日本が世界において知財立国としての地位を確立しようとさまざまな取り組みを行っている。
このような時代において、今、1つの大きな問題が知的財産を金銭に換算することの難しさである。紛争の場面においては、特許権侵害による損害賠償額の算定、発明の対価などがあげられる。発明の対価を算出するときには、発明者の特許への貢献度はどのぐらいであるのか、また、特許権が収益にどれほど影響を及ぼしたのか、などが問題となる。
知財を担保とした中小企業に対する資金の投資・融資では、その中小企業の有する知財がどのぐらいの価値を持っているのか、その企業が保有する特許権は将来どのぐらいの資産を生み出す力を持っているのか、という情報が必要である。
知財の評価の必要性は中小企業だけに限らず、大企業においてももちろん重要である。企業の知財戦略はうまくいっているのか、どのぐらいの技術力を持っているのか、といった指標は財務諸表には現れないところであり、経営者もしくは投資家等が経営や投資の参考資料として企業の技術力を把握するのは難しい。しかし、知財の経済評価は知財立国にとって必要不可欠のものであり、誰にでも分かりやすいかつ正確な指標を導入する必要がある。
我々は、これらの問題を解決すべく独自に特許権の価値評価手法を開発した。このプロジェクトは4年程前からスタートしたものであり、現在も日々進化を続けている。我々は、この手法をYKS手法、PQ手法と呼んでいる。
我々の開発した2つの手法のうち、特にYKS手法について紹介していきたい。
2.従来評価手法の弱点
まず、YKS手法を紹介する前に従来評価手法および従来評価手法に対する当所が開発した手法(YKS手法、PQ手法)の位置付けについて簡単に説明する。従来評価手法は、特許権1件あたりの価値を算出する金銭的評価手法と、シンクタンク等で行われている、相対的評価手法に大別される(図1)。
図1 特許評価手法の体系

従来の金銭的評価手法では、スコアリング利用型DCF法、ブラックショールズモデル、コストアプローチ、マーケットアプローチなど、様々な手法が用いられていた。これらの手法は、金銭的、経済的評価であることから、特許権譲渡の場面などでの需要が高いが、定性分析(スコアリング)に主観が入りやすい、また、全ての特許権を評価しようとすると莫大なコストがかかる等の問題点がある。
一方、相対的評価手法では、特許所有件数、登録率、出願件数、請求項数等を解析する統計的な評価手法や、特許明細書の単語分析、技術系統図などから技術価値を評価する手法が用いられている。これらの手法は、データ中心の評価手法であることから、客観性が担保されやすく、競合他社との相対的な技術力の比較の場面などでその機能を発揮するが、評価項目と経済活動(特許権の持つ独占排他力)との因果関係の特定が困難であるなどの問題点があった。例えば、特許数が多い企業が必ずしも収益力が高いとは限らないことは周知の通りである。
これらの弱点を一つひとつ克服すべく開発された手法がYKS手法であり、PQ手法である。YKS手法は特許権の持つ独占排他力の指数化に重点をおいて開発された相対的評価手法であり、PQ手法は主観性を極力排除することに重点をおいて開発された金銭的評価手法である。
3.特許の独占排他力をポイント化するYKS手法
YKS手法は、特許の価値が独占排他力にあるとの考えに基づき、この独占排他力を直接的に測定することを主眼とした、従来手法にはない全く新しい評価手法である。独占排他力とは、特許権者が如何に事業を独占しているかを示す力であり、言い換えれば、特許権が如何に競合他社の事業の障害となっているかを示す力でもある。この独占排他力は、他社との境界を作る塀や柵に例えることができる。敵のいないところや、誰も興味を持たないところに柵を作ってもあまり意味はない。つまり、無人島に柵を作ったとしても第三者の進入を防ぐ役目は果たせないので意味がない。しかし、実際に敵がいるところに柵を作ることには大きな意義がある。第三者が完全に進入できないような立派な塀であればその意義はより大きなものになる。つまり、東京の真ん中の混み合った場所に広い領地をとって塀を作り、第三者の進入を完全に防ぐことには大きな意義があるのである。この第三者の進入を防ぐ行為こそが競合他社の排除であり、広い領地をとることは広い権利範囲を意味し、立派な塀とは無効になりにくい特許を意味する。
多数の競合他社がひしめき合う事業において広い権利範囲をもった強い特許権を持っているということは、強い独占排他力を持っているということである。市場において強い独占排他力を持つということが特許権者に利益をもたらす源泉となる。つまり、特許の独占排他力を評価することは、特許の収益力を評価することと同義であると考えられる。
では、次に独占排他力の評価方法を説明する。独占排他力を持つ特許によって、特許権者が事業を独占するためには必ず排除すべき相手が存在する。そこで、その排除すべき相手が独占排他力を持つ障害特許に対してとる行動を考える。
仮に、あなたが自社の事業障害となる特許権を発見した場合、どのような行動をとるだろうか?まずは、その特許権の内容を調べ、そして、ライセンス交渉をするのか、潰しにかかるのか、あるいは設計変更をするのか、といった判断が迫られるだろう。そのとき、特許権に対して何らかのアクションを起こすことになるはずである(図2)。我々はこの特許権に対する第三者からのアクションを評価対象としている。
実際に発明がなされてから出願、公開、審査、登録、そして消滅するまでには特許に対して様々なアクションが起こされる。例えば、審査請求、拒絶理由通知、特許査定または拒絶査定、閲覧請求、拒絶査定不服審判、無効審判などである。このさまざまなアクションの中で、第三者のアクションとは、特許の審査経過情報を知ることができる閲覧請求や、特許権を無効にするために請求される無効審判などである。YKS手法では、このような第三者(競合他社)からのアクションを評価することで特許権の持つ独占排他力を指数化している。
図2 特許に対するアクション

では、なぜ評価対象を第三者のアクションのみに限定しているのかを説明する。例えば、第三者ではなく出願人(権利者)本人のアクションとしては「出願」があげられる。「出願」というアクションは我々の評価対象には入っていない。それは、多くの特許を出願した企業が特許による高い収益力を持つとは決して言えないからである。例えば、出願された特許のほとんどが審査請求をされずにみなし取下げになる場合や審査において拒絶され特許にならない場合にはたくさん出願をしても意味がないので、評価対象に入れることは妥当ではない。また、自己のアクションを評価対象に入れると恣意的に自己の評価を変えることが可能となってしまう。
しかし、競合他社がその存在を無視することができず、調査をしなければならない特許、調査をした結果特許回避をすることが難しいと判断し無効審判を起こして無効にしたいと思うような特許などは価値が高いと言えるだろう。YKS手法では、これら第三者のアクション(障害特許検知・排除行動)が起きているにも関わらず、現在も存続している特許を評価の対象にしている。
次に、第三者からのアクションをどのように指数化しているかを簡単に説明する。図3はある事業分野における他社へのアクションを表したものである。A社は、C社から1回、D社から2回のアクションを受けている。アクションの種類によってその重みが異なり、A社に起きているアクションの合計は3ポイントとなる。次に、B社をみると他社からは何のアクションも起こされておらず、このときB社の合計は0ポイントとなる。同様にしてC社に起きているアクションの合計は1ポイント、D社は0ポイント、E社は1ポイントとなる。つまり、ある企業に対して他社から起こされた各アクションをそれぞれの重み付けをして足すことでその企業の持つ独占排他力を指数化している。アクションの重み付けはそのアクションを起こすために投じるコストの比で行っている。
図3 ポイントの付け方

4.技術陳腐化の考慮
技術の陳腐化はどのように起こるのであろうか?技術の陳腐化とは、技術がだんだん古くなっていくということである。どんな技術でも必ず陳腐化していく。技術の陳腐化は主に代替技術の出現に起因する。例えば、A製法で製造されていた製品αが、B製法によれば5分の1の時間で製造できるということになれば、A製法の技術はもはや誰も使用せず、B製法へ移行するだろう。このとき、A製法の技術は陳腐化したと言える。さらにB製法によって製造されていた製品αに代わる、よりコンパクトな製品βが開発されれば、もはや製品αの技術は陳腐化したと言える。
では、技術の陳腐化はどのような割合でどのようなスピードで起こるのであろうか?我々は技術の陳腐化を見積もるために、特許が出願されてから特許権が年金不納などの理由により手放されるまでの年数とその割合に注目することにした。特許権の存続期間は出願から20年であるが、権利を維持するためには毎年年金を納付する必要があり、権利を維持する必要がなくなればその年金の支払いをやめることで権利は実質放棄される。特許権を手放すのは、特許権の権利範囲に属する技術が陳腐化し、維持する必要がなくなったからだと考えることができる。つまり、特許権が消滅していく割合とは技術が陳腐化していく割合と同じであると考えることができる。なお、技術が陳腐化するまでの年数や割合は技術分野によって異なるものであると考えられるので、特定の技術分野にしぼって統計をとり、その統計データから技術分野ごとの技術価値陳腐化曲線を計算している。そして、この技術価値陳腐化曲線を利用して、特許に対する第三者アクションによる得点の現在価値への引き直しを行っている。こうして算出される値をYK値と呼んでいる。
5.YKS手法の優位点
YKS手法により特許群の経済的評価を実現したことが大きな優位点のひとつである。現在、我が国において出願された全ての特許を対象としてYK値を算出することが可能である(ただし、特許庁により情報の公開がなされているものに限る)。今までも、会計的な評価手法のみを利用して特許群の経済的価値評価をするものは散見されるが、特許に固有の特徴点を評価し、他の有形財産と異なる評価手法を採用している例はほとんどなかったのではないだろうか。
これまでは、特許1件ごとの経済的価値をミクロ評価するために莫大な費用(例えば、1件当たり300万円程度)と時間を必要としていたために、特許群の経済的価値のミクロ評価は難しいとされていた。ここでいうミクロ評価とは1件の特許に対して詳細な調査を行い、その経済的価値を算出することである。YKS手法では、第三者が障害特許を調査し自己の事業への障害度合いを評価した結果起こしたアクションを評価対象としているので、第三者のミクロ評価の結果を間接的に評価していることになる。第三者の感じる事業障害度合いが経過情報に散りばめられており、それを評価対象としているのでマクロ評価でありながら解像度の高いデータになっている。例えば、これから紹介する企業ランキングのように企業ごとのYK値を算出することも可能であるし、その中でどの特許が高いYK値を持っているのかも分かる。さらに、スコアリングは利用せずに客観データのみから構成されているので、恣意性を完全に排除しているという特徴も有する。
6.企業特許力ランキング
YKS手法により、従来不可能だったマクロボリュームでの正確な独占排他力分析が可能となったことで、特許からみた企業の経済力の比較が可能となった。この企業特許力指数ランキングは東証一部上場企業を対象に弊所のホームページ上で公開している(http://www.kudopatent.com/a23.html)。
他にも、中小企業や個人発明家のYK値を算出することも可能である。この情報は、高い技術力を持つ中小企業の発掘やM&A、そのような中小企業間のM&A案件の発掘に役立つだろう。さらに、発明者ごとのYK値を算出すれば、有能な技術者のヘッドハンティングに役立つ情報も得られる。また、大企業内での特許マネジメントの優劣を収益力の側面から測定する指標にもなりうる。
また、YKS手法は次の特徴を有することに注意しなければならない。それは、YKS手法では、特許権に対し競合他社からのアクションが起こされることを前提としていることである。もし、競合他社が存在せず、独占的に事業を行っている場合には、経済的価値の高い特許を保有していたとしてもYK値は高くならない。しかし、ほとんどの場合において同業種内に競合他社が存在し、互いの技術進歩状況を監視し合っていると考えられるので、上記前提はほとんどの場合に成り立つと考えられる。
7.事務所の提供するサービス
弊事務所では、YKS手法を利用したさまざまなサービスを提供しています。例えば、特定分野における競合他社と自社の特許力比較や、新規事業参入の際の有力特許調査、あるいは、株式投資の参考資料の提供、などです。
また、今回は詳細なご紹介していませんがPQ手法を用いて特許の金銭的価値評価を行うサービスも提供しています。こちらは、特許権の担保価値の算定や、譲渡における特許権の資産価値の算定、あるいは、特許権の価値を第三者に示す資料としての活用、が可能です。
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