「金融機関から選ばれる財務戦略」 

平成22年1月12日


今回から企業の実例(ケーススタディ)のご紹介を致します。

倒産した会社の例とその原因 INDEX


 舞台は、創業者(68歳)の会長、長男(38歳)の社長が経営する地方の総合建設業です。長男が修行先の会社から戻り、30歳の時に社長に就任しました。資本金2000万円、公共事業を主体とする社員6名の小さな会社でしたが、折からの好景気に乗り業績を大きく伸ばし、売上高も30億円に迄達しました。メインバンクの都市銀行には当座貸越枠3億円とプロパー資金枠が2億円あり、2つの準メインの信用金庫からは工事引当金であれば青天井で短期借入金が出ていました。大きな設備投資もしてこなかった会社は、長期借入金も殆ど無いに等しい事実上の無借金会社でした。

会社経営を軌道に乗せた長男は、地域ボランティア活動等にも積極的に参加し、地域のリーダーとしても一目置かれる存在になっていました。また、金融機関の勧めで株にも手を出し2億円程所有していました。株の購入資金は、運転資金から捻出していました。その時「バルブ崩壊」を報じる活字は何度も新聞や雑誌等で目にする頃でしたが、地方建設会社には全く別世界の事の様に感じるくらい公共工事量が潤沢にありました。公共工事を主体とした会社のお客様は、発注者である地方自治体でしたが、受注機会均等を慣習とする業界が圧倒的な力を持っていた時代であり、同業者仲間と上手く付き合っていれば仕事が切れることはありませんでした。


失敗の原因分子
経営者が仕事以外のことで多くの時間が必要となった
会社のお客様が偏っていた
経営者が本業以外に手を出した


 社長は将来の幹部候補生を育てる為に新入社員も積極的に採用して、最大で社員は54名迄にもなりました。常識的には考えられませんが、技術者上がりの社長は、財務知識が欠如しており、財務担当者が固定費負担の危険水域を再三注意しても、資金繰りが順調に動いていれば利益が出ているぐらいに勘違いをしていました。また新入社員が稼ぎ手になる迄には、かなりの時間が掛かるのを社長は全く認識していなかったようです。


失敗の原因分子
経営者に財務知識が欠如している
経営者が固定費の恐ろしさを知らない


21世紀を目前にして、好調を続けていた地方経済も徐々に陰りが見え始め、それに合わせるように業界の枠組みが変化してきました。そのことは予定受注工事に大きな影響を及ぼし、結果的に資金繰りが徐々に圧迫され、金融機関の対応にも変化が生じてきました。右肩上がりの経済成長しか知らない社長は、今回の一連の事象について一過性であり、近いうちに元に戻るだろうと信じていました。まさか「失われた10年」と言われる様になる時期に突入しつつあとは気が付きませんでした。ちなみに当時所謂バブル崩壊に対する危機感を持つ経営者は皆無に近く、殆どの経営者が楽観的でした。

公共工事への参加資格審査において最も大きな影響を及ぼすのが経営事項審査(経審)の点数です。算出の基本となるのが会社決算書です。その意味で経審は、公共工事をメインにしている会社のアキレス腱と言えます。社長は営業面に影響が出ないように決算調整を指示しました。そして数年繰り返している内に、社長自身が真の決算内容が把握出来なくなってしまったのです。

決算書から算出される経審点数を中心に工事入札参加資格が決定されます。そこで経営が苦しくなり実態は赤字経営でも、決算書は黒字で作成申告をして点数を確保し、工事受注機会を失わないようにしている会社は、当時珍しくありませんでした。しかしながら、読者の皆さんもご記憶にあると思いますが、日本中を激震させた耐震偽装事件では、粉飾決算した書類を国土交通省に提出したとして建設業法違反の罪に問われています。


失敗の原因分子
経営者が現実を直視せず経営手法を変えなかった
経営者が縮小するマーケットにしがみついた


金融機関からの貸し渋り、貸し剥がしの言葉に代表される行為が横行し始めた頃、メインバンクの都市銀行とはある経緯をきっかけに関係が悪化しました。この会社は工事回収代金を返済原資として短期融資を受けていましたが、施工クレームで5000万円程最終残金が遅れる予定になりました。社長は早々に銀行へ行き、経過を説明し2000万円の返済猶予を願い出ました。支店長は快諾してくれましたが、同時に信用保証協会付きで2000万円融資の申し込みを勧められ、社長は申し込みしました。すると融資実行後3日間過ぎてから、融資された2000万円が先の猶予分への返済へ充当されてしまいました。しかもその後この都市銀行からは一切新規融資に応じてもらえなくなりました。不信を抱いた社長が都市銀行の支店長に幾度も面談を申し込んでも、門前払いの状態になってしまいました。

焦った社長はサブの2つの信用金庫に対して資金支援を要請しましたが、応えてくれたのは1庫だけでした。他の銀行に対して、毎月の長期借入金約定弁済を継続していた経緯もあり、時の経過に合わせて手形決済資金も不足し、事実上の赤字と肩代わり資金に対しても融資を継続してくれました。その間、有価証券や遊休土地を売却しましたが、応援をしてくれない金融機関への返済だけは進みましたが、手持ち資金が残ることはありませんでした。そして人員のリストラ着手が遅れる中、優秀なベテラン社員から退職届が出始めました。


●失敗の原因分子
経営者が金融機関の考え方を知らなかった
経営者が早期に人員リストラすることができなかった
金融機関に対して返済出来ないお金を返し続けた
金融機関の過剰な支援により、資金が先食い体質となった


 その後他行への長期借入金弁済をストップして、信用金庫単独の資金支援が続きましたが、公共工事発注の仕組みも変わり、適正利益を確保する工事受注が少なくなり、営業赤字を計上する事態になりました。資金繰りも依然厳しい状況で、最終手段として下請け会社に対する買掛金支払いを猶予してもらいました。上手く進むかに見えた支払猶予ですが、ある1社から公共工事売掛金を仮差押えされ、発注者である地方自治体からの信用が無くなり、事実上工事入札参加資格を停止されてしまいました。社長は何とか経営を建て直す為に、民間工事にシフトして努力しましたが、短期間に仕事は受注出来ませんでした。また公共工事売掛金を仮差押えされた事実を聞きつけた下請け会社からは、当然のことながら現金取引を要求されました。その結果資材の調達も出来なくなり、信用金庫の支援も限界に達し、手形不渡りを出して倒産しました。結局最後まで会社を支えてくれた社員達には、退職金も解雇予告手当ても支給されず即日解雇されました。



【総  括】

 倒産に至った経過は、上記の通りです。倒産原因を一言で表現しますと、経営者が目の前で起きている事実に疑問を持たず、真の原因を追究し対策をしなかったことにあります。

経営者は社内外で発生する問題を先送りしてはいけません。経営者がすべてを把握するのは中小企業であったとしても不可能に近いです。しかしながら致命傷になる危険性がある事柄については、短期間に結論を出す必要があります。自分で出来なければ、誰かに調べさせて報告をさせ、そして経営者が判断すれば良いのです。必ずしも財務のプロである必要はありませんが、貸借対照表と損益計算書を読む力は最低限必要です。また金融機関の仕組みと付き合い方も最低限のことを学ぶ必要があります。

 今回取り上げた会社でも、社員のリストラを早期に決断し、支援をしてくれない金融機関からの借入金に対して元金返済猶予の条件変更を受け、会社経営改善へ向けた再構築計画を立案して実行出来ていれば、状況は変わっていた筈です。資金繰りは経営者の思考能力を停止させてしまう程の破壊力がありますから、一旦資金が追い込まれてしまうと、余程精神的に強い経営者で無い限り、再び経営を浮上させるのは困難です。ですからそうなる前に手段を講じることが大切になります。

どんな赤字企業でも資金がつながっている限り倒産はしません。しかしその為に手段を選ばない経営者が増えているのも事実です。もし返済出来るか否か分からないお金を借りたら、結果的に詐欺を働いたのだとさえ思い経営をして頂きたく存じます。








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